「香港基本法 その1」では、基本法が定める「一国二制度」の大枠について整理しました。「その2」では、国家安全に関する第23条についてまとめておきます

2020年5月に開催された中国の全人代で、「香港版国家安全法」の制定案が可決・承認されました。香港の国家安全に関する法令は、香港基本法の第23条で、香港政府自らが制定すべきと明記されていますが、中央は自ら国家安全法の制定に着手しました。

いわゆる23条問題とはどのようなものか?なぜ中央が国家安全法の制定に動いたのか?ポイントを整理していきたいと思います。

 

1. 23条(国家安全条例)問題とは?


香港基本法第23条は、国家安全に関する法律を香港政府自らが制定すべきことを定めています。

第23条 香港特別行政区は国に対する謀反、国家を分裂させる行為、反乱を扇動する行為、中央人民政府の転覆、国家機密窃取のいかなる行為も禁止し、外国の政治組織・団体が香港特別行政区内で政治活動を行うことを禁止し、香港特別行政区の政治組織・団体が外国の政治組織・団体と関係を持つことを禁止する法律を自ら制定しなければならない。

 

禁止されているのは、①国への反逆、②国家分裂、③反乱の扇動、④中央政府の転覆、⑤国家機密窃取、⑥外国政治団体の政治活動、⑦香港の政治団体が外国の政治団体と関係をもつことの7項目です。

香港政府は、董建華・行政長官の二期目に立法化にむけて動きましたが、失敗し、それ以降、着手することもできずに現在に至っています。
 

2. 23条をめぐる過去の経緯

基本法の起草にあたって、起草委員会内で意見が対立し、第23条の文言は二転三転しました。1988年の草案第一稿においては、「香港特別行政区は、国家統一を破壊し、中央人民政府を転覆するようないかなる行為をも法律によって禁止しなければならない」とかなり大まかな規定にとどまっていました。1989年の第二稿において、「香港が自ら制定しなければならない」という表現に改められました。その後、天安門事件が発生し、外国政治団体の活動禁止等が含まれ、現在の文言になりました。

董建華・初代行政長官の二期目の2002年9月、香港政府は国家安全条例作成の参考とする諮問文書を公表し、23条立法化の動きを明らかにしました。2003年2月、「国家安全条例」の最終法案が公表され、立法会での審議が始まりましたが、2003年7月1日には大規模デモが発生するなど反発の声が広がりました。その後、親政府派内での離反などもあり、香港政府は23条の立法化を断念しました

中央政府はその後も、香港政府が自ら制定するという原則のもとに、香港政府に圧力をかけてきましたが、市民の反発を恐れた香港政府は、立法化に着手することはできませんでした。

2019年、香港では逃亡犯条例改正をきっかけに反政府抗議活動が展開されました。その中で、中国国旗が燃やされ、中央の出先機関である中聯弁が標的になり、香港独立が主張されるなど、中央にとって危機感を覚えるような事象が多数発生しました。

2019年11月に開催された中国共産党中央委員会の全体会議、いわゆる四中全会では、香港について「国家の安全を守る法制度と執行メカニズムを確立・健全化し、特別行政区の法執行力の強化をサポートする」との方針をコミュニケで公表しました。

2020年5月、全人代は「香港版国家安全法」の制定案を可決・承認しました。
 

3. 第18条による立法化

基本法第23条で、香港が制定すべきと規定しているにもかかわらず、なぜ中央が自ら制定すると言い出したのでしょうか?

中央は、以下の基本法第18条を根拠に、立法化を試みようとしています。

第18条 (前略)全国的な法律は、本法の付属文書3以外、香港では実施されない。本法付属文書3の法律は、香港特別行政区が現地で交付するか立法化して実施する。
(中略)付属文書3の法律は、国防、外交と関係のある法律および本法で香港特別行政区の自治の範囲に属さないと規定されたその他の法律に限定される。(後略)

 

第18条では、基本法の付属文書3について規定しています。「一国二制度」のもと、香港では中国の全国的な法律は基本的に適用されませんが、例外的に、適用される全国的な法律が付属文書3に列挙されています。
 

 
つまり、今回、中央は国家安全法を付属文書3に追加し、香港で施行しようとしているというわけです。

ただし、付属文書3の法律は、国防、外交と関係のある法律および香港の自治の範囲に属さないと規定されたその他の法律に限定されると規定されています。この点に注目した香港法廷弁護士協会(HKBA)は、国家安全は香港の自治の範囲であり、中央による制定は基本法に矛盾すると指摘しています。
(国家安全法は基本法と矛盾、法廷弁護士協会:NNA)
https://www.nna.jp/news/show/2048352


 


香港基本法について その1
 


<参考文献>